電子書籍をシリーズとして出版する〝戦略〟的な裏事情
電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」の発売がアマゾンをはじめとする電子書籍ストアではじまりました。今回、5作品を同時刊行、2017年のうちに計10作品をそろえる計画です。
桃山堂はライター仕事をしながら、細々とやっている文字どおりの個人営業の出版社ですが、なぜ、ニッチな電子書籍を「シリーズ」として刊行するのか。その裏事情についてのお話です。
電子書籍シリーズのひとつ『秀吉と空飛ぶ犬の伝説』所収写真。
福岡県筑後市には、秀吉にまつわる翼のある犬の伝説が語られている。九州遠征のとき、秀吉がつれてきたペットであるとも、秀吉軍にはむかったモンスターであるともいわれる。筑後地方の黄金の鉱脈、古墳文化から、伝説の謎を探っている。
小さい出版社がアピールできる数少ない手段のひとつ
どうしてシリーズとして、電子出版するのかというと、それが小さい出版社がアピールできる数少ない手段のひとつだからです。
ということを私が思いついたとか、発見したのではなく、学研グループ電子書籍会社ブックビヨンドのSさんに言われたからです。
Sさんはもともと、大手取次会社の社員として紙の本の仕事をしていた人ですが、電子書籍の業界でのキャリアは長いです。
電子書籍の世界における「紀元前」というのでしょうか、アマゾンキンドルが始まるまえのこともよく知っています。
そのあたりの経験をまとめた電子書籍を書いた人がSさんです。
どうして私がSさんと知り合いなのかというと、その電子書籍を読んで、非常に面白くて、勉強になったので、ぜひ、話を聞かせてくださいということでお会いしたのが最初でした。
つまり、Sさんは師匠で、私は弟子です。
私が出版社を立ち上げたものの、まだ、本は出しておらず、迷走していた時期だったとおもいます。
偶然、自宅が同じ私鉄沿線でわりあい近かったので、たまに会って雑談まじりのミーティングをしていました。
10作の電子書籍シリーズができれば、それなりの存在感が出る(はずだ)
最初に出した電子書籍がふるわなかったので、すっかり意気消沈して、いつのまにか、紙の本の出版にシフトしていたのですが、そのころ、Sさんと雑談していて、こんな話になりました。
私 「はっきり言って売れなかったです。マニアックな歴史かんけいの作品は、電子書籍には向いていないのでしょうか?」
Sさん「どんなに素晴らしい内容でも、小さな出版社とか無名の個人が一冊だけ電子書籍を出して、よく売れるということはありえません」
私 「それでは結局、紙の本と同じように、出版社の営業力、著者の知名度ということですか」
Sさん 「確かにそれもありますが、電子書籍はネットビジネスの面もあります。戦略次第でチャンスはあるとおもいますよ」
私 「ネットビジネスの何とか戦略というのは、お金ばかりかかって効果はわずかしかないという印象が強いのですが…。ご存じのとおり、うちは個人営業の貧乏出版社。広告のたぐいなら無理です」
Sさん 「お金はまったくかかりません。コストはゼロです。それなのに、効果は必ずあります。確実にあります」
私 「おお! そんなスゴイ戦略があるなら、教えてください。もちろん、タダで教えてくれるならですが」
Sさん 「答えはシリーズ化です。同じようなテーマの電子書籍であれば、独立した作品として出すのではなく、すこし調整して、シリーズにするのです。そうすれば、電子書籍のストアの上では確実に目につきやすくなります。バラバラで売るよりも確実に売上は伸びるはずです」
私 「何作品あれば、シリーズになりますか」
Sさん 「10作品。電子書籍を売る立場としては、最低でも10作品あれば、売りやすくなります」
こんな雑談のなかから、「秀吉伝説集成」という電子書籍シリーズの〝芽〟が生じました。
桃山堂という出版社には、営業力も広告力も、もちろん資金力もないという悲惨な現実が、シリーズ化という戦略の発端だったのです。
(Sさんと話をしたときは、メモも録音もしない完全な雑談でしたから、上記の一問一答は記憶をもとに再現したものです。正確ではありませんが、だいたいこんな内容だったとおもいます)
つづく