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桃山堂ブログ

豊臣秀吉の<謎>、火山と古事記の探究、電子書籍への挑戦。

羽犬伝説──「金属を探す犬」という民俗学的知見から考えると

 福岡県筑後市羽犬塚という地名の発祥をめぐって、豊臣秀吉と「羽犬」すなわち翼のある犬の伝説が語られています。そもそも、どうして犬なのだという疑問を解き明かす手がかりを、「金属を探す犬」という民俗学のキーワードに求めてみます。

(以下の記事は、電子書籍「秀吉伝説集成」の一作『秀吉と翼の犬の伝説』の内容紹介です)

 

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筑後市羽犬塚には、こんな看板も。

 

 

 犬の嗅覚は地下資源を発見することができるのか

織田信長の家臣であったころの秀吉は、中国方面軍の司令官として播磨国の姫路城を拠点としていました。もとは黒田官兵衛(如水)の城です。黒田家は江戸時代も大名家として存続し、筑前国(福岡県北部)の藩主となったのはご存じのとおりです。

 

播磨国は古代から鉄、銅など金属資源の豊かなところですが、『播磨国風土記』の讃容郡の条に、金属文化と「犬」についての注目すべき記述があります。ほぼこのような内容です。

 

山の四面に十二の谷がある。どの谷も鉄を産出する。孝徳天皇のとき、はじめて献上した。鉄の鉱脈を発見した人は別部(わけべの)犬(いぬ)である。

 

「別部犬」をふつうに解釈すると、別部がファミリーネーム、「犬」が個人名ということになりますが、別部という人が飼っていた犬という解釈も可能です。

 

日本刀研究者の近江紀夫氏はこの文面について、「犬の嗅覚を利用して地中の鉱物資源を探索する技術があったことにもとづくもの」(『刀剣と歴史』二〇一一年十一月号)と述べています。

 

皇学館大学教授で、住吉大社などの神職でもあった真弓常忠氏は「犬」について、さらに踏み込んだ解釈を提唱しています。この方面では、評価の高い『古代の鉄と神々』という本から引用します。 

「犬」とは、製鉄の民の間では砂鉄を求めて山野を跋渉する一群の人びとの呼称であった。つまり製鉄の部民にほかならない。(中略)「犬」が製鉄の部民を意味すると知るなら、犬上、犬飼、犬養の氏や地名も、これをたばねる人びとをいうことと判明しよう。

 

鉄の探索者が犬と称されたのは犬をともなって、山野をめぐっていたからだという説明です。犬はすぐれた嗅覚によって金属資源のありかを探り出すことができたかどうかは不明ですが、そう信じられていたのは事実です。

 

江戸時代に書かれた「たたら製鉄」にかかわる技術書『鉄山必要記事』のなかにある祭文、つまり祭祀のときの唱え言葉のなかにも犬がでてきます。およそこんな内容です。

 

金屋子神は高天が原から播磨国に天降り、はじめて金属の道具をつくったが、やがて白鷺に乗り、西に向かい、出雲国に至り、山林の桂の木のうえで休んでいた。数多くの犬をつれた狩人がそこを通ろうとしたとき、犬が桂の木で輝く光をみつけて吠えたてた。狩人が問うたところ、「私は金屋子神である。この地で鉄をつくる仕事をはじめたい」と答えた。

 

播磨国から出雲国への技術者集団の移動と解釈されている一文ですが、「鉄」の神である金屋子神を、犬が発見するという筋立てになっています。

「鉄」の神が白鷺に乗って移動するというのですから、こじつけかもしれませんが、羽犬伝説と同じく、犬と鳥の伝説ということになります。

 

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これは羽犬塚小学校まえの羽犬銅像

 

柳田国男の「黄金小犬」伝説

犬は鉄だけでなく、黄金を探す能力ももっていると信じられていたことを「花咲かじいさん」は物語っています。童謡の歌詞にはこう描かれています。

 

裏の畑でポチがなく

正直じいさん 掘ったれば

大判 小判が ざくざく ざくざく

 

柳田国男の昔話についての論考『桃太郎の誕生』では、「黄金小犬」という伝承がとりあげられています。「花咲かじいさん」と似た話なのですが、「黄金小犬」は九州およびその南の島々に伝わる話だというので、九州・薩摩に注目する本稿にもかかわる問題です。要約するとほぼこのような話です。

 

二人の兄弟のうち、弟は親孝行で死んだ親を懇ろに供養したが、兄はその正反対だった。ある日、いつものように弟が墓参りをしていると、墓のなかから犬が飛び出してきた。家に帰って、飯を食わせると、犬は黄金の糞をした。それをうらやんだ兄が犬を借りてゆき、大量の黄金を手に入れようと、一升の飯を食わせたところ、犬は死んでしまった。弟はそれを悲しんで犬を丁寧に埋葬したところ、そこから木がはえ、黄金の実をつけた──。

 

現代社会においても犬は、その鋭敏な嗅覚によって、覚醒剤犯罪の捜査から地雷の探査までさまざまな領域で活躍しています。

民俗学が報告する「金属を探す犬」や「黄金小犬」を羽犬伝説と照らし合わせてみると、秀吉の九州遠征の部隊には、金銀鉱山の専門家である山師も同行しており、金属探査能力を持つ(と信じられている)犬が実在していた──という想定は可能です。あるいは、金属資源を探査する人そのものを「犬」と呼んだという説もあるので、動物の犬であるとも、特殊技能をもった鉱山師であるともいえます。

 

 

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電子書籍『秀吉と翼の犬の伝説』の立ち読みリンクを用意しました。

秀吉と翼の犬の伝説 - つながりで読むWebの本 YONDEMILL(ヨンデミル)

 

yondemill.jp