日本史上の人物のなかで最も稲荷と縁の深い豊臣秀吉
秀吉を祭神とする長浜市の豊国神社のなかにある稲荷社。
秀吉の守護神は稲荷?
神道関係の本を多く書かれている戸部民夫氏の『戦国武将の守護神』は、勇猛果敢な戦国武将の神頼みの一面がわかって面白い本ですが、豊臣秀吉が最初に信仰したのは稲荷神であると紹介されています。
稲荷のほか、大黒天、阿弥陀如来、不動明王などが秀吉ゆかりの神仏として紹介されています。
稲荷信仰の専門家である大森恵子氏の大著『稲荷信仰と宗教民俗』には、「武将たちと城鎮守稲荷神」という章があり、ここで最も詳しく記述されているのが豊臣秀吉の稲荷信仰です。
秀吉の稲荷好きは相当なもので、関東地方にまで噂されたらしい。
後世に至って、豊臣秀吉の立身出世にあやかろうと願う人々の参詣を受けて、秀吉に関わる由来伝承を付随する稲荷社は流行神となり、二〇世紀の今日まで根強い信仰を集めているのである。
(一六四ページ)
日本史上の人物のなかで、最も稲荷と縁が深いのは豊臣秀吉だとおもわれます。
秀吉と稲荷信仰にまつわる問題は謎めいていて、奥深く、とても面白いです。
ここを深掘りすれば、いろいろ新しい知見を得られるのではと、僕は考えているのですが、残念ながら、今のところ、それをほかの人にうまく伝えることができていないのです。
秀吉本企画、ボツの原因?
以前、このブログに書かせていただいたように、僕は名の知れた出版社に企画書を送って、「秀吉本」の刊行を狙っていたのですが、そのときのメインテーマは、稲荷信仰者としての秀吉というものでした。
しかし、結果からいうと、この企画に興味をもってくれる編集者さんはほとんどいませんでした。
その後、何人かの知人に、秀吉と稲荷のことを話したのですが、どうも、反応がよくありません。
「秀吉は無教養で、難しい仏教の教学がわからないから、お稲荷さんでも拝んでいたんじゃないの」
「出世稲荷という神社があるくらいだから、秀吉は出世がしたくてお稲荷さんを信仰したんだろう? 関白にまでなったのだから、ご利益はあったわけだね」
お稲荷さまが出世の神になったのは、大森氏も書いているように、秀吉が稲荷信者だったから、秀吉の出世にあやかりたい人が稲荷を拝んだことによるようです。
知人の反応は原因と結果が逆さまなのですが、それを指摘しても、「あ、そうなの」とあっさりしたものです。
「稲荷神社なんか全国どこにでもあるのだから、単純な確率論だけでいっても、秀吉が稲荷を拝んでいたことに、それほど不自然な印象をもたないのだけど」
どうも、秀吉が稲荷信者だという話は、インパクトに欠けるようです。
僕がかつて送っていた「秀吉本」の企画がボツになった一因も、このあたりにあったのかもしれません。
秀吉と稲荷神はよく似ている
後醍醐天皇が真言立川流に傾倒していたらしいという話が、人びとの興味をひくのは、邪宗めいた立川流と天皇という組み合わせの新奇さにあるとおもいます。
皇族の誰それさんはキリスト教徒だったらしいという無責任なウワサ話も、その意外感が人をひきつけるようです。
秀吉は氏素性のはっきりしない低い出自ですが、お稲荷さまも庶民派ですから、キャラクターが似通っているようにみえます。
秀吉が稲荷信仰者であると聞いても、驚きの感情をもつことはなく、興味、関心にむすびつきにくいのかもしれません。
しかし逆から考えると、秀吉と稲荷神が似ているということは、その結びつきの深さ、強さを示唆している可能性があります。
豊臣秀吉は非常に謎の多い人ですが、稲荷神をとおして、その謎の一端に触れることができるのでは、と僕は考えてしまうのです。
ところが、稲荷神は庶民派の外見をしていますが、ヌエ的とでもいいましょうか、とらえどころがなく、こちらも実に謎めいた存在らしいのです。
稲荷信仰はきわめて単純であるとともに、雑多であり、はっきりとした教理があるわけでもなく、教祖、教団もなく、組織も体系もない。いわば得体が知れないのである。
と述べておられます。
この点において、秀吉と稲荷神はよく似ています。
そして、これは秀吉と稲荷の関係を説明するのが、非常に難しい原因にもなっています。
このブログでは、今まで調べたことをもう一度、整理して、秀吉と稲荷について考えてみます。
うまく論点が整理できれば、電子書籍にまとめて、「本」としてのこしたいとおもっています。
紙の本の一般書として出したいという希望はあるのですが、どうも、テーマがマニアックすぎるようです。
逆にいえば、ネット向きの話題なのかもしれません。
当ブログの目的のひとつには、せっかく、秀吉のことをあれこれ調べたり、取材したりしたのだから、文字にして書きのこしておきたいという願望もあります。
当ブログの記事が、心ある人の目にとまることを祈願しつつ、インターネット空間の虚空にむけて、秀吉をめぐるよもやま話をさらに書き綴ってみます。
お稲荷さまのご加護のあらんことを!
(つづく)