桃山堂ブログ

歴史、地質と地理、伝承と神話

電子書籍販売の困難さについて

小さな個人営業の出版社を運営しておもうのは、本を販売するのはたいへんだということですが、電子書籍の販売は、それ以上に、そして紙の本とは違った困難があるようです。なぜ、電子書籍を届けることは難しいのか。弱小出版社の大きなテーマです。

 

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電子書籍『秀吉と翼の犬の伝説』の掲載写真。

 福岡県筑後市には、秀吉にまつわる翼のある犬の伝説が語られている。九州遠征のとき、秀吉がつれてきたペットであるとも、秀吉軍にはむかったモンスターであるともいわれる。羽犬伝説をまじめに探究した世界で最初の作品!(たぶん) 

 

紙の本の流通、電子書籍の流通

 

私は小さな個人営業の出版社を運営しつつ、ライターかんけいの仕事もやっています。そちらの締め切りで忙殺されてしまい、ブログの更新がうまくできない状態になっていました。ブログで報告すべきことも、いろいろと溜まっているので、少しずつ書いてみます。

 

豊臣秀吉をめぐる謎をテーマとして、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」を作成中であることは先日、申し上げたとおりです。今週中には各電子書籍ストアでの発売がはじまるとおもいます。

 

桃山堂という出版社を立ち上げ、二〇一四年に『豊臣女系図──哲学教授櫻井成廣の秀吉論考集』という本を出して、ほぼ同時に電子書籍も刊行したのですが、ほとんど売れず、反響もないという状況でした。

 

太平洋に浮かべたボートのうえで、本を売っているような感じ──とでもいいのでしょうか。

適当な喩えを思いつかないのですが、一言でいえば、手ごたえがなかったのです。

 

この本は青山大学で哲学の教授をしていた櫻井氏が豊臣秀吉について書いた文章をまとめたものですから、かなりマニアックというか、ニッチな秀吉論です。

もとより、ベストセラー狙いではないのですが、紙の本の場合、ジュンク堂紀伊國屋書店をはじめとする大型書店ではそれなりに扱ってくれました。

いまも、大きな本屋さんの棚には並んでいるとおもいます。

 

そんなに売れたわけではありませんが、読者の方からのメールや電話もいただき、「本を出した」という手ごたえはあります。

 

本の流通を取り仕切っているのは、トーハン、日販などのいわゆる取次会社です。出版社を取次会社と契約して、出来上がった本を取次会社に持ち込む。取次会社はそれを全国各地の書店に流し、売れ残ったらその逆のルートで出版社に返品される──ということはご承知の方も多いとおもいます。

 

私はもともと新聞記者をやっていて、出版業界の事情はなにも知りませんでしたから、出版社をはじめようと思ったとき、トーハン、日販などに電話してみました。

 

条件は会社によって違うのは当然でしょうが、個人営業の出版社でも条件に合致すれば、「契約することは可能」だそうです。

ただ、その条件が資本金一〇〇〇万円以上だとか、一年間に一〇冊以上の新刊を出すとか、私がやっているような微々たる出版とは異質の世界の話なのです。

 

それでも、桃山堂の本が書店に置いてもらえるのは、トーハン、日販との契約がなくても、「二次取次」とよばれる会社に本をもちこめば、その会社のルートで、トーハン、日販の流通に乗せてもらえるのです。

 

「二次取次」の会社はいくつかあって、それぞれ性格も違うのですが、私は東京・神保町にあるJRCという会社にお願いしています。

 

典型的なぬか喜び

 

一方、電子書籍の世界にも、取次会社があって、やはり大手二社を中心とする流通システムがあります。この二社はトーハン、日販ではなく、電子書籍専門の取次会社です。

 

紙の本の世界では、桃山堂株式会社はトーハン、日販と契約することはできなかったのですが、電子書籍のほうでは、すんなりと大手二社のうちのひとつと契約できました。

 

それで当初は、喜んでいたのですが、それが文字どおりのぬか喜びであったことを、発売してすぐに悟ったのでした。

 

今回、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」は、学研グループの電子書籍会社ブックビヨンドに、取次的なこと、および販売支援をおねがいしました。

 

ブックビヨンドは学研グループの電子書籍部門でもあるわけですから、当然、教育を中心とする出版社としての機能をもっているのですが、ストアとしての機能、他の出版社への取次・販売支援サービスの提供なども行っています。

 

ブックビヨンド社は、電子書籍の二次取次というわけではないのですが、私の立場からは、似た関係になります。

 

と書くと、ビジネスライクに業務を委託しただけのようですが、正確にいうと、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」は、ブックビヨンドの社員であるSさんと、電子書籍についていろいろと議論しているなかから、スタートした企画です。

 

そのあたりの経緯や「秀吉伝説集成」の取材・編集にまつわる裏話についても、このブログで、紹介してみたいと思います。

 (つづく)