秀吉伝説の「羽犬」は黄金の聖獣グリフィンと似ている?
福岡県筑後市の羽犬塚という地名の発祥をめぐって、豊臣秀吉と「羽犬」すなわち翼のある犬の伝説が語られています。一方、古代西洋の伝説には、翼のある聖獣グリフィンが登場します。グリフィンに比べると、羽犬伝説はあまりにもマイナーですが、黄金というキーワードによって、この二つの伝説が結びつく可能性があるのです。
(以下の記事は電子書籍「秀吉伝説集成」の一作『秀吉と翼の犬の伝説』からの抜粋です)
ハリー・ポッターの学生尞は「グリフィンドール」
まずは、福岡県筑後市にある羽犬の銅像とグリフィンを描いたイラストを並べてみます。
福岡県筑後県税事務所まえの羽犬像
ウィキペディアより。正確にはグリフィン(グリフォン)の息子。
似ているかどうかは主観の問題ですが、羽犬とグリフィンは似ているという前提で、その背景を考えることにします。
グリフィンは、ドラゴン、ユニコーンなど空想上の生き物の仲間で、グリフォン、グリュプスともいいます。
鳥のような翼のある獅子(ライオン)なのだそうです。
古代オリエント世界にルーツをもつグリフィン伝説は、ヨーロッパへと広がり、神話や物語のなかに定着しています。
「グリフォンは黄金を発見し、守る」(ウィキペディア)という言い伝えがあり、財産や権威の守護が期待されているのですが、知識は黄金に値するという連想から、知識の守護神でもあるそうです。
企業から学校までさまざまな団体が紋章としてグリフィンを掲げています。
小説や映画でおなじみの魔法使いの少年ハリー・ポッターが通う魔法学校にはいくつかの学生尞があって、団体戦のように競い合うようすが描かれていますが、ハリーが暮らしている学生尞を「グリフィンドール」といいます。「黄金のグリフィン」というフランス語であるそうです。
グリフィンと黄金が結びついています。
豊臣秀吉といえば、黄金の茶室で知られた「黄金太閤」。
その秀吉の愛犬(あるいは強敵?)という伝説をもつ羽犬は、黄金によってグリフィンと結びつく──。
すこし強引なこじつけのような気もしますが、黄金伝説として羽犬を考える手がかりをグリフィンは与えてくれるという程度であれば、言ってもいいのではないでしょうか。
元祖歴史家ヘロドトスの証言
紀元前五世紀ごろ、ギリシャの歴史家ヘロドトスが書いたとされる『歴史』には、以下のようなことが書かれています。
ヨーロッパの北方には、他と比較にならぬほど大量の金があることは明らかである。その金がどのようにして採取されるかについても、私は何も確実なことを知らないが、伝えられるところでは、一つ眼のアリマスポイという人種が怪鳥グリュプスから奪ってくるのだという。(岩波文庫『歴史』上巻 一一六ページ)
黄金の山を守る聖獣のイメージです。
でも、ここでは「怪鳥」と記されており、「鳥」の性格が強くにじんでいます。
日東金属鉱山株式会社の技師で、相内鉱山の地質研究で東北大学の博士号をもつ石井康夫氏は、一般向けの著書『きみも金鉱を発見できる』のなかで、黄金の採掘者としてのグリフィンを紹介しています。
金は、地中から産した希少な金属で、黄金色に輝く色彩と光沢を持ち、変色・腐敗もしない神秘で魅惑的な金属であるため、古代から太陽の落とし子だと信じられ、これを掘りだすのは、獅子の体にワシの頭と翼を持った怪獣が、そのくちばしで掘るのだと考えられていた。
そういえば、秀吉は自ら、母親が太陽によって懐妊した「太陽の子」であると称し、そう記された外交文書もあります。
黄金と太陽。
ここにもキーワードの交差がありますが、これについては別の機会に考えてみます。
秋田県にも、羽犬/グリフィン的・謎の生命体が出現!?
尾去沢鉱山(秋田県鹿角市)は日本を代表する銅山でしたが、金銀を産出していた時代もあります。
『獅子大権現御伝記』という江戸時代末期に地元の僧侶によって書かれた文献によると、鉱山の発見は奈良の大仏がつくられるときだったといい、グリフィンと類似する不思議な獅子が登場します。
空を飛ぶ獅子(ライオン)が出現し、まだ知られていなかった銅山に人びとを導いたというのです。
「空中に唐獅子の形の物、あらわれ出」うんぬんの古文書は、『獅子大権現御伝記』などで検索すれば、ネット上でも見ることができます。
また、別の話もあって、室町時代、銀閣寺が建てられたころ、尾去沢の上空に怪鳥が出現し、村人を恐怖させていたのですが、あるとき、山の中で怪鳥の死骸がみつかり、その体内には金銀銅が満ちていたといいます。
そのそばに「獅子の形の岩」があったので、掘ったところ、すばらしい鉱脈がみつかった──と同書に記されています。
ここでは獅子と鳥が分離されていますが、こちらも、金銀銅の発見にかかわる翼のある獣の伝説です。
この種明かしはわりと簡単かもしれません。
豊臣秀吉、徳川家康の時代は鉱山開発が盛んで、ヨーロッパや中国から最新の鉱山技術が競うように導入されていました。
キリスト教にかかわる鉱山師が各地で活躍していたころなので、黄金を発見しそれを守護するグリフィンの神話が当地にも伝わり、変形しながら幕末まで伝承されていたのだと考えられます。
電子書籍『秀吉と翼の犬の伝説』の立ち読みリンクを用意しました。
秀吉と翼の犬の伝説 - つながりで読むWebの本 YONDEMILL(ヨンデミル)
羽犬伝説──秀吉ゆかりの「翼のある犬」の正体は何なのか?
羽犬塚という町は福岡県筑後市の中心部にあります。「はいぬづか」と読むちょっと変わったこの地名の発祥をめぐって、豊臣秀吉と「羽犬」すなわち翼のある犬の伝説が語られています。今回は、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」の一作『秀吉と翼の犬の伝説』を紹介しつつ、羽犬伝説について書いてみます。
羽犬塚駅前には、偉人のような羽犬の銅像
博多と熊本、鹿児島を結ぶJR鹿児島本線に羽犬塚駅があります。快速電車であれば博多から四十五分程度。
JR羽犬塚駅ロータリーに銅像があり、町の名士の銅像でものっていそうな重々しい台座ですが、ブロンズの犬がペガサスのように二つの翼を広げて、いままさに飛び立とうとしています。
鳥のような翼を持つ犬、すなわち「羽犬」を葬った塚が築かれたことによって、この地を羽犬塚と呼ぶようになった。地元ではそう語りつがれており、その説話の主役が豊臣秀吉なのです。
天下統一の戦の途上にあった豊臣秀吉が、薩摩国の島津氏を制圧すべく、十万を超える雲霞のごとき大軍団を率いてこの町を通過したのは、天正十五年(一五八七)四月のこと。熊本を経て、鹿児島へ入った秀吉軍。総力戦に至るまえに島津氏は降伏し、秀吉はふたたびこの町を通って、博多へと凱旋します。
羽犬伝説 二つのバージョン
羽犬伝説には二つのバージョンがあるのですが、羽犬塚駅前にある筑後市役所の説明パネルをもとに紹介してみましょう。
- 九州遠征に来た秀吉は「羽のある犬」を連れていた。しかしその愛犬はこの地で病気にかかり死んでしまった。秀吉が羽のある犬のために塚をつくり葬ったことから、この地は羽犬塚と呼ばれるようになった。
- 昔、この地に翼のはえた犬がいて、人や家畜を襲い、住民から恐れられていた。秀吉が九州遠征した際、この羽犬によって行く手を阻まれ、大軍を繰り出しやっとの思いで退治した。秀吉は、羽犬の賢さと強さに感心し、犬のために塚をつくり丁寧に葬った。
荒唐無稽な伝説とはいえ、それらしい史実の「種」があったに違いない。そう考える人は少なくないようで、文献的な探索はつづいていますが、残念ながらその成果は乏しいようです。
秀吉のそばに犬がいて、九州遠征の途中に死んだという史実でもあれば、羽犬伝説の歴史学的な評価はぐんと上がるのでしょうが、秀吉が愛犬家だったという記録もなさそうです。
羽犬塚駅まえでは、羽犬マークのタクシーがお出迎え。
羽犬と黄金の聖獣グリフィン
電子書籍『秀吉と翼の犬の伝説』では、現実の歴史とはすこし距離をおいて、神話・伝承の世界のなかで、羽犬伝説とは何かを検討します。
世界各地の文献には、さまざまな形の空想上の「幻想動物」が記録されていますが、翼のある獅子(ライオン)であるグリフィンは、羽犬とよく似た形態をもっています。黄金を発見し、それを守護すると信じられた聖獣グリフィンを糸口として、羽犬伝説の神話的なバックグラウンドを考えています。
『秀吉と翼の犬の伝説』を、途中まで読んでいただける「立ち読みリンク」を用意しました。
電子書籍の立ち読みリンク ── 実験的プロジェクトに参加します。
電子書籍の立ち読み、試し読みはすっかり定着していますが、このほど、フライングラインという会社がおこなっている「立ち読みリンク」の実験的なプロジェクトに参加することになったのでその報告です。
電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」の試し読み
百聞は一見にしかず。まずは、どれかの「立ち読みリンク」を見ていただければ、ありがたいです。弊社刊行の電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」の中身紹介です。
『秀吉と翼の犬の伝説』
https://yondemill.jp/contents/20631?view=1&u0=3
『古墳と秀吉』
https://yondemill.jp/contents/20670?view=1&u0=3
『尾張中村日の宮伝説』
https://yondemill.jp/contents/20669?view=1&u0=3
『豊臣秀吉の系図学』
https://yondemill.jp/contents/20671?view=1&u0=3
『黒田官兵衛目薬伝説』
https://yondemill.jp/contents/20672?view=1&u0=3
電子書籍の立ち読みは、アマゾンキンドルをはじめとして、多くのストアでやっていますが、この立ち読みリンクが、私が自分で長さを決めて作成し、このブログにはりつけています。
フライングライン社が提供しているyondemilというサービスをつかっています。
出版社側が支払う料金は発生しません。
試し読みは途中までで、そのあとは有料という仕組みも基本的にはほかと同じだとおもいますが、この立ち読みリンクの場合、パソコンのブラウザーで、そのまま全部、読めてしまうということがセールスポイントのひとつだとおもいます。
正直なところ、立ち読みでもいいから、読んでいただければとありがたいとおもい、通例よりは、多少、長めの立ち読み範囲にしております。ぜひ、お目通しください。
著者のブログなどを〝お店〟にしてもらう
この仕組みがおもしろいのは、本の著者など関係者がやっているブログ、ウェブサイトにリンクをはってもらえれば、そこが、もうひとつの販売窓口になるということです。
『豊臣秀吉の系図学』の著者の日本家系図学会会長、宝賀寿男氏たちのグループが運営しているウェブサイトに、『豊臣秀吉の系図学』の立ち読みリンクをはっていただきました。
http://wwr2.ucom.ne.jp/hetoyc15/kousin-rireki.htm
古代氏族から中世の武家系図にいたるまで、系図関係の情報が満載のサイトなので、興味ある方はそちらの中身のほうもご覧ください。
弊社のような知名度のとぼしい出版社が電子書籍を出すうえでの最大の問題は、アマゾンキンドルに登録しても、完全に埋没して、関心をもってくれそうな人にもなかなか届かないという問題です。
著者のブログ、サイトに立ち読みリンクを載せるということは、とりあえず、関心をもってくれそうな人に情報を届ける有力なツールにはなるとおもいます。
以下のサイトに、サービスのことが紹介されています。
『秀吉と翼の犬の伝説』のネット書評
弊社刊行電子書籍『秀吉と翼の犬の伝説』について、「フムフム」という書評サイトに、書評が掲載されました。
書いていただいたのは、電子書籍のセルフパブリッシャーでライターとしても活躍している忌川タツヤ氏です。
先に紹介した歴史研究書『秀吉と翼の犬の伝説』では、現実的な考察もおこなわれています。なかでも「秀吉が犬をつれていた理由」についての仮説の数々は、興味深いものばかりです。
たとえば「すぐれた嗅覚をもつ犬に金鉱脈を探させるため」というものです。火山が立ち並ぶ九州地方は、日本有数の「金の産出地」でもあります。「ここほれワンワン」というわけです。
「黄金の茶室」で知られる金ピカ大好きな秀吉のイメージに照らし合わせると納得できました。
読みごたえのある書評です。ぜひ、ご覧ください。