桃山堂ブログ

歴史、地質と地理、伝承と神話

電子書籍づくりの魅力はコストを気にせずカラー写真を使えること

今回、電子書籍を制作して実感したことのひとつは、コストを気にせず、カラー写真をふんだんに使えることです。紙の本との比較でいうと、これは電子書籍の大きなメリットだとおもいます。

 

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美濃赤坂の地名の由来は赤い土にある

 

上記の風景写真は、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」のひとつ『豊臣秀吉の系図学』として今回、刊行した作品で使用した画像です。

岐阜県大垣市の「赤坂」にあり、古代から鉄鉱石が採取されていた鉱山で、いまも石灰石が掘られています。

 

美濃の刀鍛冶集団の居住エリアとしても知られています。

美濃鍛冶はのちに、赤坂の地から関市のほうに移住し、関の孫六をはじめとする名工の名によって知られます。

 

この土地で採取されていた鉄鉱石は、赤鉄鉱と呼ばれる種類で、赤坂という地名はそれ由来します。

鉄が採れなくなって久しいですが、上の写真を見ていただければわかるとおり、ほんのりと赤みを帯びた土の色が、赤鉄鉱の産地であったことを示しています。

 

豊臣秀吉の系図学』はもともと紙の本として出版し、今回、電子化してシリーズのひとつに加えました。

下の写真は、紙の本の該当ページです。

 

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これでは、ほんのりと赤い土があることにより、赤坂という地名を生じたという写真のもつ面白みがまったく伝わりません。

 

電子書籍は今日、スマホタブレットで読む人がほとんどだとおもいます。

 

カラー写真を効果的に使えば、文章の説得力を高めることができるはずです。

 

私の場合、残念ながら、電子書籍の制作に入る前、写真をカラーで見ていただくという意識がなくて、あまり良い写真を用意していませんでした。

反省点です。 

 

 でも、紙の本として出版した『豊臣秀吉の系図学』と比較すると、電子書籍版のほうはカラー写真によって、説得力が増したのではとおもえるケースがいくつかあります。

 

美濃の名刀は赤い鉄鉱石でつくられた

 

同じ美濃赤坂の事例ですが、これが赤坂の鉄生産の素材となっていた赤鉄鉱という種類の鉄鉱石です。

 

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日本の伝統的製鉄というと、砂鉄をつかったタタラ製鉄の印象がつよいですが、古代においては、鉄鉱石による製鉄のほうがずっと多かったそうです。

美濃、近江はその中心地のひとつであるといわれています。

 

この赤鉄鉱は、赤坂の鉄鉱石鉱山跡のすぐ近くにある「金生山化石館」という博物館に陳列してあるものを撮影させていただきました。

 

この鉄鉱石を間近に見たときの印象は強かったので、『豊臣秀吉の系図学』を出版するとき、ぜひ、掲載したいとおもっていました。

 

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白黒写真では、こんな感じになってしまいます。

残念ながら、赤い石なのか、黒い石なのかもわかりません。

 

それほど赤い鉄鉱石にこだわりがあるのならば、カラー写真をつかった本をつくればいいではないかと思われるかもしれません。

 

しかし、それは非常に難しいことです。

 

世の中の書籍の大半が白黒印刷であることからもわかるとおり、カラー写真の使用はすごくコストがかかります。

 

私がやっているような千部単位の少部数出版物では、実質的には不可能です。

計算したことがないので適当ですが、二〇〇ページで五〇〇〇円というような価格になってしまうかもしれません。

 

赤い鉄鉱石の写真をカラーで使えただけでも、『豊臣秀吉の系図学』の電子書籍版を作れて良かったとおもっています。

 

豊臣秀吉の系図学』の紙の本と電子版は、原稿の内容はほぼ同じですか、写真はかなり修正したり、追加したりしました。

 

前回、申し上げたとおり、Sさんからの指令で、ヨコ写真をタテ写真に差し替えています。

また、タテ写真を意識して、いくつか紙の本では掲載していない写真を電子版では追加しています。

たとえば、こんな写真です。

 

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赤鉄鉱の鉱山のそばにある明星輪寺の行場です。修験道にかかわる寺ということで、ここでも金属文化と修験道のかかわりが見えて興味深いところです。

 

なぜ、美濃赤坂に秀吉が関係するのか

 

尾張の生まれの豊臣秀吉の話にどうして、美濃赤坂の鉄鉱石鉱山がかんけいするかというと、秀吉の母方は美濃の刀鍛冶ではないかという伝承とか系図があり、このあたりに秀吉の先祖がいた可能性があるからです。

 

秀吉の母方の親類といわれる青木紀伊守という武将がいますが、青木氏は美濃赤坂に拠点があった形跡があります。

 

山鹿素行の『武家事紀』に竹中半兵衛の先祖は「茜屋」だというのですが、それもこの鉄鉱石に由来するとおもいます。

半兵衛の出生地は赤坂からは少し離れていますが、先祖が赤坂近くにいたという伝承があります。

 

 (つづく)

電子書籍の写真はタテが良い──考えてみれば当たり前の教訓

電子書籍を読むのはタブレットにしろ、スマホにしろ、縦長の画面ですから、写真などの画像はタテが良い──というのは電子書籍制作になれた人にとっては当たり前でしょう。

私はボンヤリしていて気がつかず、最後になって、写真をほぼ総替えすることになり、結構、たいへんでした。これから電子書籍をつくろうという方には、もしかすると役に立つかもしれない、写真についてのノウハウです。

 

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紙の本の豊臣秀吉の系図学  近江、鍛冶、渡来人をめぐって掲載の写真。電子書籍の写真はこれをタテにトリミングしたものです。

写真は、秀吉の出生伝説のある滋賀県長浜市草野にある鍛冶場の跡。草野は古代からつづく有名な鍛冶集落。

 

電子書籍の魅力は写真にある

うちの嫁さんはネットまわりのことにも、歴史かんけいのことにも関心がありません。したがって、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」の刊行が開始されるという、桃山堂にとっては大きなイベントにも、コイツ、相変わらず何やっているのだか、という冷ややかな視線を投げるだけです。

とはいえ、無理やりiphoneに送りつけて、読んでもらったところ、

「写真がキレイね。全部、自分で撮った写真なの?」

というコメントでした。

内容については沈黙です。

 

確かに、タブレットスマホで見ると、写真が光沢を放って輝き、紙で焼いた写真、パソコン画面でみる写真より鮮やかな印象がします。

気のせいでしょうか。何か理由があるのかもしれませんが、よくわかりません。

 

電子書籍掲載の写真をほぼ総替えして、大変だったこと

今回、電子書籍の配信、販売などを、学研グループの電子書籍会社ブックビヨンド社に委託しているので、電子書籍のファイルを一応、仕上げたあと、担当のSさんに送ってチェックしてもらいました。

 

Sさん 「写真ですけど、ほとんどがヨコですねえ」

 

わたし 「タテにできるものはタテにしていますが、撮影のとき、ヨコの構図で撮っているので、どうしてもヨコでつかいたくなるのです」

 

Sさん 「スマホタブレットも画面はタテですから、電子書籍の写真はタテ。それが原則です」

 

わたし 「以前、勤務していた新聞社で、〈写真の基本はヨコ。タテは大きなサイズで載せるときだけ〉ということを教え込まれているので、つい、ヨコ写真ばかり、撮ってしまっているんです」

 

Sさん 「いろいろあるかもしれませんが、絶対、タテにしたほうがいいです」

 

私のささやかな抵抗もむなしく、写真は最大限、タテを増やすということになって、ヨコ位置の写真をトリミングしてタテにして、電子書籍ファイルに張り直すという作業を黙々と繰り返すことになったのです。

 

でも、変更してみると、その効果は絶大でした。

 

うちの嫁さんが、「写真はキレイ」といったのも、スマホ画面にタテ写真が大きく出ていたからだとおもいます。

 

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ヨコ構図の写真を無理やりタテにした実例。

 

教訓

今回の反省をふまえての、自分への教訓です。

 

写真を撮影する段階で、ヨコ構図だけではなく、タテ構図の写真もきちんと撮影しておくこと。

 

そうすれば、電子書籍につかったときの写真映えはアップするし、手間ひまもかからないという二重のメリットがあります。

 

(つづく)

 

 

電子書籍をシリーズとして出版する〝戦略〟的な裏事情

電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」の発売がアマゾンをはじめとする電子書籍ストアではじまりました。今回、5作品を同時刊行、2017年のうちに計10作品をそろえる計画です。

桃山堂はライター仕事をしながら、細々とやっている文字どおりの個人営業の出版社ですが、なぜ、ニッチな電子書籍を「シリーズ」として刊行するのか。その裏事情についてのお話です。

 

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電子書籍シリーズのひとつ『秀吉と空飛ぶ犬の伝説』所収写真。

福岡県筑後市には、秀吉にまつわる翼のある犬の伝説が語られている。九州遠征のとき、秀吉がつれてきたペットであるとも、秀吉軍にはむかったモンスターであるともいわれる。筑後地方の黄金の鉱脈、古墳文化から、伝説の謎を探っている。

 

 

小さい出版社がアピールできる数少ない手段のひとつ

 

どうしてシリーズとして、電子出版するのかというと、それが小さい出版社がアピールできる数少ない手段のひとつだからです。

ということを私が思いついたとか、発見したのではなく、学研グループ電子書籍会社ブックビヨンドのSさんに言われたからです。

 

Sさんはもともと、大手取次会社の社員として紙の本の仕事をしていた人ですが、電子書籍の業界でのキャリアは長いです。

電子書籍の世界における「紀元前」というのでしょうか、アマゾンキンドルが始まるまえのこともよく知っています。

そのあたりの経験をまとめた電子書籍を書いた人がSさんです。

 

どうして私がSさんと知り合いなのかというと、その電子書籍を読んで、非常に面白くて、勉強になったので、ぜひ、話を聞かせてくださいということでお会いしたのが最初でした。

つまり、Sさんは師匠で、私は弟子です。

 

私が出版社を立ち上げたものの、まだ、本は出しておらず、迷走していた時期だったとおもいます。

 

偶然、自宅が同じ私鉄沿線でわりあい近かったので、たまに会って雑談まじりのミーティングをしていました。

 

10作の電子書籍シリーズができれば、それなりの存在感が出る(はずだ)

 

最初に出した電子書籍がふるわなかったので、すっかり意気消沈して、いつのまにか、紙の本の出版にシフトしていたのですが、そのころ、Sさんと雑談していて、こんな話になりました。

 

私 「はっきり言って売れなかったです。マニアックな歴史かんけいの作品は、電子書籍には向いていないのでしょうか?」

 

Sさん「どんなに素晴らしい内容でも、小さな出版社とか無名の個人が一冊だけ電子書籍を出して、よく売れるということはありえません」

 

私 「それでは結局、紙の本と同じように、出版社の営業力、著者の知名度ということですか」

 

Sさん 「確かにそれもありますが、電子書籍はネットビジネスの面もあります。戦略次第でチャンスはあるとおもいますよ」

 

私 「ネットビジネスの何とか戦略というのは、お金ばかりかかって効果はわずかしかないという印象が強いのですが…。ご存じのとおり、うちは個人営業の貧乏出版社。広告のたぐいなら無理です」

 

Sさん 「お金はまったくかかりません。コストはゼロです。それなのに、効果は必ずあります。確実にあります」

 

私 「おお! そんなスゴイ戦略があるなら、教えてください。もちろん、タダで教えてくれるならですが」

 

Sさん 「答えはシリーズ化です。同じようなテーマの電子書籍であれば、独立した作品として出すのではなく、すこし調整して、シリーズにするのです。そうすれば、電子書籍のストアの上では確実に目につきやすくなります。バラバラで売るよりも確実に売上は伸びるはずです」

 

私  「何作品あれば、シリーズになりますか」

 

Sさん 「10作品。電子書籍を売る立場としては、最低でも10作品あれば、売りやすくなります」

 

こんな雑談のなかから、「秀吉伝説集成」という電子書籍シリーズの〝芽〟が生じました。

桃山堂という出版社には、営業力も広告力も、もちろん資金力もないという悲惨な現実が、シリーズ化という戦略の発端だったのです。

 

(Sさんと話をしたときは、メモも録音もしない完全な雑談でしたから、上記の一問一答は記憶をもとに再現したものです。正確ではありませんが、だいたいこんな内容だったとおもいます)

 

つづく 

 

電子書籍販売の困難さについて

小さな個人営業の出版社を運営しておもうのは、本を販売するのはたいへんだということですが、電子書籍の販売は、それ以上に、そして紙の本とは違った困難があるようです。なぜ、電子書籍を届けることは難しいのか。弱小出版社の大きなテーマです。

 

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電子書籍『秀吉と翼の犬の伝説』の掲載写真。

 福岡県筑後市には、秀吉にまつわる翼のある犬の伝説が語られている。九州遠征のとき、秀吉がつれてきたペットであるとも、秀吉軍にはむかったモンスターであるともいわれる。羽犬伝説をまじめに探究した世界で最初の作品!(たぶん) 

 

紙の本の流通、電子書籍の流通

 

私は小さな個人営業の出版社を運営しつつ、ライターかんけいの仕事もやっています。そちらの締め切りで忙殺されてしまい、ブログの更新がうまくできない状態になっていました。ブログで報告すべきことも、いろいろと溜まっているので、少しずつ書いてみます。

 

豊臣秀吉をめぐる謎をテーマとして、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」を作成中であることは先日、申し上げたとおりです。今週中には各電子書籍ストアでの発売がはじまるとおもいます。

 

桃山堂という出版社を立ち上げ、二〇一四年に『豊臣女系図──哲学教授櫻井成廣の秀吉論考集』という本を出して、ほぼ同時に電子書籍も刊行したのですが、ほとんど売れず、反響もないという状況でした。

 

太平洋に浮かべたボートのうえで、本を売っているような感じ──とでもいいのでしょうか。

適当な喩えを思いつかないのですが、一言でいえば、手ごたえがなかったのです。

 

この本は青山大学で哲学の教授をしていた櫻井氏が豊臣秀吉について書いた文章をまとめたものですから、かなりマニアックというか、ニッチな秀吉論です。

もとより、ベストセラー狙いではないのですが、紙の本の場合、ジュンク堂紀伊國屋書店をはじめとする大型書店ではそれなりに扱ってくれました。

いまも、大きな本屋さんの棚には並んでいるとおもいます。

 

そんなに売れたわけではありませんが、読者の方からのメールや電話もいただき、「本を出した」という手ごたえはあります。

 

本の流通を取り仕切っているのは、トーハン、日販などのいわゆる取次会社です。出版社を取次会社と契約して、出来上がった本を取次会社に持ち込む。取次会社はそれを全国各地の書店に流し、売れ残ったらその逆のルートで出版社に返品される──ということはご承知の方も多いとおもいます。

 

私はもともと新聞記者をやっていて、出版業界の事情はなにも知りませんでしたから、出版社をはじめようと思ったとき、トーハン、日販などに電話してみました。

 

条件は会社によって違うのは当然でしょうが、個人営業の出版社でも条件に合致すれば、「契約することは可能」だそうです。

ただ、その条件が資本金一〇〇〇万円以上だとか、一年間に一〇冊以上の新刊を出すとか、私がやっているような微々たる出版とは異質の世界の話なのです。

 

それでも、桃山堂の本が書店に置いてもらえるのは、トーハン、日販との契約がなくても、「二次取次」とよばれる会社に本をもちこめば、その会社のルートで、トーハン、日販の流通に乗せてもらえるのです。

 

「二次取次」の会社はいくつかあって、それぞれ性格も違うのですが、私は東京・神保町にあるJRCという会社にお願いしています。

 

典型的なぬか喜び

 

一方、電子書籍の世界にも、取次会社があって、やはり大手二社を中心とする流通システムがあります。この二社はトーハン、日販ではなく、電子書籍専門の取次会社です。

 

紙の本の世界では、桃山堂株式会社はトーハン、日販と契約することはできなかったのですが、電子書籍のほうでは、すんなりと大手二社のうちのひとつと契約できました。

 

それで当初は、喜んでいたのですが、それが文字どおりのぬか喜びであったことを、発売してすぐに悟ったのでした。

 

今回、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」は、学研グループの電子書籍会社ブックビヨンドに、取次的なこと、および販売支援をおねがいしました。

 

ブックビヨンドは学研グループの電子書籍部門でもあるわけですから、当然、教育を中心とする出版社としての機能をもっているのですが、ストアとしての機能、他の出版社への取次・販売支援サービスの提供なども行っています。

 

ブックビヨンド社は、電子書籍の二次取次というわけではないのですが、私の立場からは、似た関係になります。

 

と書くと、ビジネスライクに業務を委託しただけのようですが、正確にいうと、電子書籍シリーズ「秀吉伝説集成」は、ブックビヨンドの社員であるSさんと、電子書籍についていろいろと議論しているなかから、スタートした企画です。

 

そのあたりの経緯や「秀吉伝説集成」の取材・編集にまつわる裏話についても、このブログで、紹介してみたいと思います。

 (つづく)