小林秀雄の文庫本は、うちの近所の文房具屋さんにも並んでいたこと。
長崎市の名門書店、好文堂の週間ベストセラーランキングで、私が書いた『火山で読み解く古事記の謎』が突然、第七位に浮上!
というきわめて個人的ニュースから、四十年まえの書店事情を思い出しました。
『火山で読み解く古事記の謎』、週間ベストセラー・ランキング第七位の謎
新書界の巨星『応仁の乱』と伊集院静先生の『大人の流儀』の間にはさまれ、いわゆるビルの谷間のラーメン屋状態です。
長崎市で突然、火がついたように売れ始めたのなら素晴らしいのですが、実は、私の(実質的な)出身地が長崎市なので、親戚筋、知り合い筋がまとめ買いしたのではないかと想像されます。
他県の人には伝わりにくいことですが、長崎で好文堂といえば伝統と格式の老舗書店ですから、そのランキングに掲載されたことは、なんだか表彰台に立たされたような面映ゆい気持ちです。
まとめ買いだけではないことを願っています。
生まれたのは福岡市ですが、幼稚園から高校までは長崎市で暮らしていました。
通っていた学校は、長崎市内の西城山小学校、緑が丘中学校、県立北高。
私の実家のある町から、好文堂まではバスで三十分くらいですが、すこしは本を読みはじめた高校時代には、好文堂であれこれ物色していました。
でも、お金もないから、文庫本くらいしか買えなかったですけどね。自慢できるような本を買った記憶もありません。
『本居宣長』についてのぼんやりした記憶
四十年くらいまえのことですから、うろ覚えですが、小林秀雄の『本居宣長』(新潮社)が新刊として出たとき、好文堂の週間ランキングで第一位だったような気がします。いや、うろ覚えではなく、もうすこしはっきりした記憶です。
新聞の長崎県版に出ていた売上ランクで見たような……。
いま、ネットで調べてみたら、四千円!
こんなに高額で、難しい本、いったい、誰が買っていたのでしょう?
一昔前の日本には、なんと読書家が多かったのかと、驚いてしまいます。
それとも、みんな見栄張りだったのでしょうか。
でも、今の時代、見栄で買うような本なんて思いつきません。
やはり、小林秀雄が偉かったということなのでしょうか。
文房具屋でも売っていた小林秀雄
私の中学、高校時代は一九七〇年代から八〇年代にかけてですが、そのころ、小林秀雄は「試験に出る評論家ナンバー1」として学校でも推奨されていたので、文庫本になっているものは半ば義務的に読みました。
好文堂まで行かなくても、近所には、店の片隅に本を並べている文房具屋があって、そこにも小林秀雄の文庫本は並んでいました。
当時は出版社がどこかなんて意識していませんでしたが、このラインナップ、明らかに新潮文庫です。あの文房具屋さんは本屋兼業とはいえ、新潮文庫だけを置いていたと推察されます。
いま考えると、小林秀雄は「文房具」だったわけですが、その文房具屋さん兼本屋は跡形もありません。
私の場合、『本居宣長』を単行本で読んだ記憶がなく、上下二冊の文庫本でした。
大学時代かあるいは、社会人になってからでしょうか?
本居宣長の墓について記述はとても印象的でしたが、古事記そのものについては、そんなに踏みこんでいないというか、テーマにはしていなかったような記憶があります。
読み直そうとおもいつつ実行していないことを、好文堂の週間ランキングで思い出しました。
長崎市というか長崎県の読書界で、好文堂は独占的な権威をもっていたのですが、その後、紀伊国屋書店をはじめ全国チェーンの書店が相次いで出店し、競争はきびしくなっています。
店舗も往時より小さくなってしまい残念ですが、中心商店街である「浜の町」のアーケードにあり、長崎関係の本もきちんとそろえている貴重な本屋さんです。
観光でお越しのおりには、ぜひ、長崎本コーナーをのぞいてください。