桃山堂ブログ

歴史、地質と地理、伝承と神話

これは便利! アマゾンキンドルで電子書籍の「コピペ引用」

紙の本と電子書籍を比較したとき、メリット/デメリットはいろいろありますが、電子書籍で「これは便利」とおもうことのひとつが、文章をコピペ的に引用できることです。

私の百倍くらい本を読んでいる友人のN君とM君はいまだに電子書籍を拒否しているのですが、この二人を折伏する気合いをこめて、電子書籍のメリットのひとつ「コピペ引用」について書いてみます。

 

小松左京『アメリカの壁』からの引用

昨日のブログで話題にした電子書籍『アメリカの壁』(小松左京文藝春秋社刊)です。アマゾン社のタブレット端末「キンドルファイアー」で読みました。

 

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青のマーカー部分が、昨日のブログで引用した文章です。

 

自分が気に入った文章、重要だとおもった文章にしるしをつけるマーカー機能は、ほとんどの電子書籍リーダーで使えるとおもいますが、キンドルの場合、マーカーをつけた部分を、以下のような一覧で見ることができます。

 

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マーカーの文章を、「コピペ」したいときは、

ttps://kindle.amazon.co.jp/

 

をクリックして、キンドルのサイトに行きます。アマゾンで使っているパスワードでログインすると、自分のキンドル本のデータを見ることができます。

 

 

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"Your Highlights"というところをクリックすると、マーカーをつけた文章がズラッと並んでいます。 

 

 『アメリカの壁』を読んでいるとき、私がマーカーでしるしをつけた文章は以下のものです。

 

いちばん下の行、「外の世界はあまりに長い間」という一文を、昨日のブログでは引用しました。

 

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 昨日のブログでは、こんなふうに引用しています。

 

この作品には興味深い文章が多々あるのですが、たとえば、作中人物のアメリカ人から発せられた以下のようなセリフがあります。

 

〝外の世界〟はあまりに長い間、アメリカにぶらさがりすぎた。アメリカに言わせれば、あまりに長い間、むしられすぎた。いくら巨大な鯨でも、これだけいろんな連中にむしられりゃ……

  

〝外の世界〟が暗示しているのは、言うまでもなく日本。

 確かに四十年まえの作品とはおもえない、今日的なテーマです。

 

 

 

 

たいして長い文章ではないので、手で写せばいいではないかという話になりそうですが、もっと長い文章を引用することもあるし、一冊の本から何か所も引用することもあるので、やはり便利な機能です。

 

ネット上で書評を発表している人たちは、当然ながら、この機能をガンガンつかっているようです。

ネット書評家の人が書いたブログを通して、私はキンドルをつかった「コピペ引用」の方法を知りました。

 

紙の本から引用するときに困ることのひとつは、あとで校正・照合の作業をする際、どこのページに書いてあったかわからなくなり、引用箇所を探すうちに半日を費やすという事態がたまにですが生じることです。

 

書き写す作業のあいだに、誤字脱字をしてしまうことはしばしばです。

 

電子書籍の「コピペ引用」は、作業の効率性と確実性をともにあげるメリットがあるといえます。

 

忘却と記憶の復元

 

"Your Highlights"の機能で面白いとおもうのは、自分が読んだことを忘れている本につけていたマーカーの文章を再読して、これは確かに良い文章だなあと再認識することです。

 

「記憶の復元」というのかどうかわかりませんが、これも便利です。

 

電子書籍にはゼロ円の本とか、読み放題サービスで自由に読める本が多くて、低い集中力で読むことが少なくありません。

 

読んだことさえ忘れているくらいですから、その文章にマーカーをつけたことは記憶の彼方です。

 

たとえば、寺田寅彦の科学エッセイ『地震雑感』は無料のキンドル電子書籍ですが、これを読んだことを失念していました。

いま見ると、以下の文章が"Your Highlights"に載っていました。

 

地球の物理を明らかにしないで地震や火山の現象のみの研究をするのは、事によると、人体の生理を明らかにせずして単に皮膚の吹出物だけを研究しようとするようなものかもしれない

 

さすが、寺田寅彦博士と言いたい、大きな視野による文章です。

 

地震雑感

地震雑感

 

 

文春新書『火山で読み解く古事記の謎』は、寺田寅彦「神話と地球物理学」から繰り返し引用しているのですが、これも青空文庫版の電子書籍をつかわせてもらいました。

 

というわけで、最後は宣伝になってしまいました。

 

電子書籍の長さについて ── 文藝春秋社・電子書籍編集部、『アメリカの壁』の事例

文春新書『火山で読み解く古事記の謎』の刊行と同時に、電子版も発売されたということは先日、申し上げたとおりですが、文藝春秋社・電子書籍編集部の方々とはメールのやりとりがあっただけでした。

先日、打ち合わせを兼ねて、電子書籍編集部の吉永龍太部長ほかの皆さまとお話をする機会があったので、面白いとおもったことをいくつか報告します。

 

アメリカの壁 小松左京e-booksセレクション【文春e-Books】

電子書籍のプロモーション

個人運営の小さな出版社を営む立場としての私は、昨年来、電子書籍の制作にかかりっきりで、このブログはその過程を報告することを目的に「電子書籍モタモタ実験工房」というタイトルでスタートしました。

 

という次第で、電子書籍については、〝商売〟的な関心があるのですが、興味があることのひとつは、文藝春秋社がどのようなプロモーションをしているのかということでした。

 

とくに著者・作者の立場で行うネット上のプロモーションの成功事例があれば、それをまねして、このブログで報告するのも面白いのではないかとおもっていたのですが、これについては、

電子書籍だからといって、紙の本とは違ったプロモーションがあるわけではありません」

という回答でした。

 

世の中の流れを見て、メディアがとりあげてくれそうなプレスリリースを出して、うまく話題を広げてゆけば、電子書籍だけの作品であっても売上を伸ばす──ということのようです。

 

電子書籍はインターネット関連のビジネスという側面もありますが、閲覧者数や訪問回数を競うウェブサイト、ブログの世界とは違った要素が多いのも事実。

 

電子書籍は、あくまでも「本」であることを再認識しました。

 

『アメリカの壁』についてのケーススタディ

最近の成功事例として、たとえばという話で、吉永部長から、紹介していただいたのが『アメリカの壁』という作品です。

 

『アメリカの壁』は、SF作家、小松左京氏が四十年まえに書いた短編小説です。

「輝けるアメリカ」をスローガンにかかげて当選したモンロー大統領は国際社会への関与に消極的な孤立主義者ですが、その就任三年目、突如、出現した「壁」によって、アメリカは外の世界との通信、交通がいっさい遮断されてしまいます。

 

トランプ大統領による〝Make America Great Again〟のスローガン、そして「壁」。

現実世界と四十年まえのSF作品がシンクロしたような状況がネット上でも話題になっていることを、文藝春秋社の編集部が知り、この作品だけを電子書籍として刊行することになったそうです。

 

「刊行を決めて、三日後には発売していた」というので、このあたりのスピード感が電子書籍のメリットだとおもいます。

 

発売日の二月九日に出されたプレスリリースの冒頭、以下のような文面があります。

 

SF界の巨匠・小松左京はアメリカが「壁」に

囲まれるのを予言していた?

注目の小説『アメリカの壁』を電子書籍で緊急発売!

 

リリースを出した当日付けの毎日新聞の夕刊社会面にさっそく記事が出ており、三月六日には読売新聞の朝刊コラム「編集手帳」でも紹介されています。

ネット上での話題も広がり、順調に売上を伸ばしているそうです。

 

この話で私が面白いとおもったのは、すでに、『アメリカの壁』という同じタイトルで、全六話の短編集の電子版が売られていることです。

(文庫本三百二十八ページの紙の本のほうは在庫切れ状態)

 

全六話の短編集としての『アメリカの壁』は五百円、「アメリカの壁」を一作だけで電子書籍としたほうは二百円。

 

価格は安くなりますが、一作だけで電子書籍として刊行することによって、「緊急発売」というプレスリリースを打つことができ、話題をつくることに成功したといえます。

 

小松左京というビッグネームで、文藝春秋社の電子書籍だから成功したといってしまえばそれまでですが、この成功事例については、私のような超零細出版社や個人のパブリッシャーにとっても、考えるべきテーマがいくつかあるとおもいます。

 

ひつつは、電子書籍の長さという問題です。

 

現在、刊行されている電子書籍の大半は、紙の書籍を電子化したものですから、十万字以上(紙の本で二百ページ以上)の比較的長い作品です。

 

紙の本の場合、二百ページくらいの厚さがないと、本らしくならないという程度の理由で、無理して膨らませるケースがないとは言えないのですが、電子書籍については、そうした制約はありません。

 

電子書籍の長さはどれくらいが望ましいか、という議論はいろいろあるようですが、短編小説の一作分、紙の本でいえば四十から五十ページというのはひとつの目安である気がします。

文字数換算では、二万字前後といったところ。

微妙な案配ですが、短すぎず、長すぎず、ということです。

 

 「アメリカの壁」は文庫本六十ページなので、短編小説としてはやや長めですが、この作品を電子書籍端末で読んでみて、緊張感をもって一気に読み終えるのにちょうどいい長さだと感じました。

 

電子書籍編集部長の吉永氏によると、アマゾンをはじめとする電子書籍ストアの担当者から、しばしば言われることは、「もっと、短い作品が欲しい」ということだそうです。

「アメリカの壁」だけで電子書籍として刊行した背景には、そういうストア側からの要望もあったようです。

 

教訓と感想

まずは、弱小出版社の運営者としての教訓と感想です。

 

電子書籍という「本」が、ジャーナリズム的な手法とは違ったアングルから、政治的なニュースに連動している現象が面白いとおもいました。  

 

旧作品の再紹介という手法は、歴史ある出版社しかできないかもしれませんが、ほかにも切り口はあるとおもいます。

 

このくらいの長さでシャープな内容を盛り込むことができれば、弱小版元や個人パブリッシャーにもチャンスはあるのではないか。

そんな感想をもちました。

 

自分でも、何かできないだろうかと考えています。

そのお手本としての価値も、『アメリカの壁』にはあるとおもいます。

 

 

二百円の電子書籍『アメリカの壁』を、アマゾンのキンドルストアから購入した消費者の立場としては、とても面白く読ませてもらい、満足しています。

 

「壁」の出現について、SF的謎解きは、作品の末尾で明らかにされており、私のような年代の読者はノスタルジーを禁じ得ないはずですが、この作品の場合、SFとしての趣向よりも、アメリカという国の心性そのものがメインテーマだとおもいます。

 

この作品には興味深い文章が多々あるのですが、たとえば、作中人物のアメリカ人から発せられた以下のようなセリフがあります。

 

〝外の世界〟はあまりに長い間、アメリカにぶらさがりすぎた。アメリカに言わせれば、あまりに長い間、むしられすぎた。いくら巨大な鯨でも、これだけいろんな連中にむしられりゃ……

  

〝外の世界〟が暗示しているのは、言うまでもなく日本。

 確かに四十年まえの作品とはおもえない、今日的なテーマです。

 

 

 

キリシタン大名、大村氏の城に行ったこと。大村寿司のこと。

玖島城長崎県大村市玖島)といっても、その知名度は乏しいかもしれませんが、キリシタン大名として教科書にも出ている大村氏の居城です。

城跡は大村公園、大村神社となっており、石垣が残っているだけです。

週末、実家のある長崎市に帰っていたので、花見を兼ねて、城跡に行ってみたのですが、折悪しく今年は寒さがつづいており、桜はあまり咲いていませんでした。

 

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玖島城のすぐ近くに、大村市立玖島中学校があります。

途中で転校して、卒業はしていないのですが、私は玖島中学校に二年間、通っています。

 

小さい規模とはいえ、大名の城のそばの中学校に通学するというのは、いま考えると恵まれた環境ですが、当時は、城にも石垣にも、もちろん「石」そのものにも興味はなく、ありがみを感じることもありませんでした。

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 新しく積み直したのかもしれませんが、野面積み的な石垣が大半を占めています。

史料的なことはまったく調べたことがないのですが、加藤清正の指導をうけたという伝承があります。

 

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豊臣秀吉の死と海の堅城・玖島城

 

大村氏が玖島城を築いたのは慶長三年(一五九八年)。

つまり、豊臣秀吉が死んだ年であり、再び、天下が乱れ、九州においても戦いが起こる事態を想定しての築城であるという解説をみます。

 

大村氏の歴史についても、調べたことがないのですが、築城の時期と秀吉の死が一致していることには興味をひかれます。

 

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玖島城の跡は現在、陸続きになっており、「島」ではなくなっていますが、もとは、海の水を堀とするいわゆる「海城」であったことが、上記復元図からも明らかです。

 

埋め立てられた堀を戻して、もう一度、「海城」の現状を復元すれば、城好きの人たちがもっと訪れるとおもうのですが、そんなムダな公共工事をやることは難しいでしょう。

 

石垣、櫓はいくらか復元されていますが、玖島城玖島城である根幹である「海城」の姿は、想像するしかありません。

 

大村氏が玖島城を築くまえに拠点としていたのは、三城城(さんじょうじょう)で、こちらはまったくの平城です。

 

玖島中学校に入学するまえは、大村市立三城小学校に一年だけですが、通っていました。

城跡は、忠霊塔といっていた神社だと記憶しているのですが、その城跡の近くに、三城小学校があります。

 

大村市に暮らしていた小学校、中学校時代は、こうして振り返ると、城まみれの日々だったわけですが、住民にとっては、あまりにもあたりまえの風景なので、ことさら、お城のことが話題になることもあまりありませんでした。

 

そういえば、私が大村市ですごした時期より、四、五年まえまで、大村氏の当主である大村純毅氏が大村市の市長をつとめていました。

 

殿さま市長とか、殿さま知事という事例はいくつかありますが、大村純毅市長もそのひとりです。

 

大名大村氏ゆかりの大村寿司

 

大村市には、大名家大村氏の伝承に由来する大村寿司という郷土料理があります。

 

客観的には、ちらし寿司を箱状にしたものでしかないと言われれば、そのとおりですが、お祝いごとには欠かせない郷土料理です。

 

とはいえ、大村市のスーパーなどでも売られているので、完全に市民生活に定着した料理です。

 

玖島城の近くには、大村寿司で有名な「やまと寿司」があります。

城跡で、しょぼい花見をしたあと、「やまと寿司」に行きました。

 

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店を入ったところにあるパネルによると、美智子妃殿下、皇太子も食べられたということが紹介されています。 

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長崎 大村寿司 | 九州の味とともに 春 | 霧島酒造株式会社

 

大村寿司の写真はおいしそうに撮影できなかったので、霧島酒造さんのサイトからの引用です。

霧島酒造さんのサイトは、九州のいろいろな郷土料理の説明があって、とても読みごたえがあります。

 

同サイトには、大村寿司の歴史も書かれており、大村のお殿様とのゆかりが紹介されています。

史実かどうかは別としても、この伝承によって、ありがたみが増すことは事実。

 

 

大村寿司は、長崎空港大村市)でもさりげなく販売されています。 

目立つ看板、旗をかかげて売られているわけではないので、すこしわかりにくいかもしれません。お土産屋さんが並んでいるコーナーの、薬類を販売しているあたりです。

 

歴史好きの人が、長崎空港を利用される折には、ぜひ、大村寿司をご賞味ください。 

出雲神話のふるさと島根・鳥取県の新聞に『火山で読み解く古事記の謎』の紹介記事

島根県鳥取県の地方新聞・山陰中央新報の三月二十三日付け文化面で、桃山堂・蒲池明弘が執筆した文春新書『火山で読み解く古事記の謎』を紹介していただきました。

 

古事記神話の主要舞台である出雲エリアの新聞社にとりあげていただけるとは、とても光栄です。

 

ありがとうございます。

 

こんな紹介記事です。

古事記神話の舞台である出雲、九州、熊野を中心に、火山と神話の誕生とを結び付けて考察する。

 

古代の人たちが、火山噴火や地震発生を超自然的な現象として捉え、神話を生み出すきっかけになったと解釈する。

 

ヤマタノオロチは溶岩・火砕流であると見立て、アマテラスの岩戸隠れは巨大噴火に伴う日照障害を由来とするなど、豊富なデータや文献を基に神話の背景を探る。

 

三瓶山噴火で埋もれた縄文杉を訪ねるなど、山陰両県に関する記述も多い。著者は元大手紙記者。平易な言葉による分かりやすい表現は、古事記や神話の入門書としても役立ちそうだ。(文春新書)